ブックレビュー『ゴールデンスランバー』 [読書の時間]
以前から話題になっていた本だったので、いつかは読みたいと思っていましたが、飽き性の自分にとって500㌻という長編が読めるのか?いや、読めんやろ。いやいや、読めるはずや。
と、自問自答しながら、やっと読むに至りました。
2009年の1冊目です。
J.F.ケネディを暗殺した『犯人』、オズワルドは事件発生から短時間の内に逮捕され、数日後移送される最中にやじうまの中からでてきた男に銃撃されて死亡する。
オズワルドを『犯人』とするには状況証拠からしてかなり無理があり、本当にオズワルドの犯行だと思う人は今はもういないだろう。
では真の犯人は誰なのか。
不思議な事に誰もそれを知りたがろうとはしていない。
一人の『犯人』が逮捕されて、殺された。それでこの暗殺事件は人々の中では解決してしまったのだろう。
犯行手順は?狙撃に使った銃の入手ルートは?共犯はいるのか?そして、動機は?
大多数の人は、事件の詳細はどうでもよく、結果がわかれば解決してしまうのだ。それで安心なのだ。
と言う事は『犯人』は誰でもよかったのでは?
この小説の主人公はオズワルドと同じく、首相暗殺の犯人に仕立て上げられる。
彼が出来る事は、逃げる事だけ。捕まればいくら無実を訴えても強大な力によって真実を捻じ曲げられてしまうからだ。
知恵を働かせて、とにかく逃げる。
これに協力するのが、かつての仲間だったり面白半分に介入する者。
逃走中に協力の手を差し伸べる者が皆、現代社会の矛盾や権力者の本当の姿を知る反社会的な人物ばかりで、彼等は主人公が犯人ではない事を一般市民よりも早く理解する。
メディアから流される情報は主人公=犯人として、一般市民を洗脳していく。
今までも、犯人扱いされながらも実は被害者だった、というケースはある。
その度にメディアは報道のあり方を自ら問い、今後の教訓としてきたはずだ。しかし、相変わらずニュース番組も視聴率優先であり、疑わしい人物には逮捕された時に使えそうな映像を撮ろうと突っ込んだインタビューをしたりする。
「ほら、この時の落ち着きのない表情を見て下さい」何かの研究をしている偉い先生がコメントする。
報道というバラエティに成り下がった番組は無実の者を追い詰めていく。
表があれば、裏がある。
報道されている内容だけが真実ではないと、改めて感じた。
結局、主人公の末路はハッピーともアンハッピーとも言えないものであったと感じたが、主人公としてはハッピーエンドだったのだろう。「たいへんよくできました」の花丸をもらったんだから。
一貫して主人公の無実を信じた人物からの最大のごほうびの花丸。
とにかくメディアの言う事を真に受ける事の怖さを感じた作品でした。
「本屋大賞」、「このミステリーがすごい」等、4冠を取った作品ですので文句無しにおもしろかった。
映像化を期待する。